変化の時代を生きる ─ 元教師が見出した、新たな人との向き合い方
八戸で活動する事業者インタビュー。教育現場から保険業界へ転身した箱石駿太郎さんが語る、『月20件』から『月5〜6組』への転換と、相手の人生観に寄り添う仕事の本質。三八城公園での取材記録です。
はじめに
私、HAMA PHOTOは写真家として活動する傍ら、事業を営む方々へのインタビュー記事の執筆も行っています。写真を通して人々の表情や空気感を切り取り、言葉を通してその人の想いや哲学を伝える。そんな活動を続けています。
取材の目的
私たちは今、大きな転換期を迎えています。終身雇用が崩壊し、誰もが何らかの形で「個」として生きていかねばならない時代。しかし、それは決して悲観すべきことではありません。
なぜなら、テクノロジーの進化により、個人でも世界中に自分のサービスや製品を届けられる時代になったからです。自分と向き合い、内省を重ね、独自の強みを見出していけば、必ずそれを必要としている誰かがいる。そう信じています。
このメディアでは、すでに独自の道を歩んでいる事業者の方々を取材し、その生の声をお届けします。彼らの時間の使い方、障壁の乗り越え方、そしてなにより仕事に向き合う姿勢には、きっと皆様の参考になるヒントが隠されているはずです。
決して薔薇色の成功譚ではなく、試行錯誤の連続の中で見出された知恵や工夫。それらを共有することで、読者の皆様の新たなアイデアや可能性を引き出すきっかけになれば幸いです。
今回は、教育現場から保険業界へと転身され、独自の価値観で仕事に向き合う箱石さんの取材をお届けします。
教育者から保険営業へ ─ より深く人と向き合う仕事を求めて
本記事では、教育現場から保険業界へ転身された箱石駿太郎さん(1996年2月生まれ)へのインタビューを通じて、保険業界での働き方の実態に迫ります。成功事例の紹介ではなく、日々試行錯誤を重ねながら自身の理想の働き方を追求する等身大の姿から、この仕事の本質と可能性を探ります。
取材場所に選んだのは、八戸市の三八城公園。江戸時代、八戸藩の政治の中心であった八戸城の城跡が、今では市民の憩いの場となっている。紅葉が始まり、冬の足音が聞こえ始めた11月初旬。肌寒い空気の中、公園のベンチで箱石さんは教員時代の話から語り始めた。
教育現場での日々
──教員になられた理由を教えていただけますか?
「教育実習がきっかけでした。最終日に生徒から『先生が来てくれてよかった』と言われて。教育実習の期間中、生徒たちと過ごした時間の中で、『この子たちの人生に関われる仕事がしたい』と強く感じたんです」
箱石さんは当時を振り返りながら、静かな口調で続けた。
「教員になってからは、子供たちと真摯に向き合おうとすればするほど、システムの壁にぶつかることも多くて。学校行事一つとっても、『去年こうだったから』という理由だけで物事が進められる。本当にこの内容が生徒のためになるのか、という本質的な議論がほとんどなされない。教師という立場上、組織の方針に従わざるを得ない場面も多くて。その度に『これでいいのか』という思いが募っていきました」
意外な出会いが変えた未来
──保険の仕事との出会いについて教えていただけますか?
「小中高からの先輩が、銀行員から保険会社に転職して、声をかけてくれたんです。正直に言うと、最初は『うわ、来たな』って(笑)。保険の営業と聞いて、良いイメージは全くありませんでした」
「でも、話を聞いているうちに、純粋にこの考え方は大切な人に伝えたいと思ったんです。実際に40人ほどの方にお話しさせていただきました」
──なぜそんなに多くの方に?
「理由は二つあって。一つは烏滸がましいですが、担当してくださる方に頑張ってほしいという気持ち。もう一つは、純粋にこの話は絶対に役立つと確信したからです」
「実は教員になった時、『僕に出会えてよかった』と思ってもらえる先生になりたい。それが一番の目標でした。教育実習の時、最終日に生徒から『先生が来てくれてよかった』と言われて、その想いを強くした。でも実際の教育現場では、自分のビジョンを完全には体現できないもどかしさがありました」
「システムや昔からのしきたりに縛られ、生徒一人ひとりの人生に本気で向き合えない。『去年こうだったから今年もこう』という形だけの踏襲が続く。そんな中で保険の仕事に出会い、『お客様にとって一番役立つことを数多くこなした人が評価される』という話を聞いた時、自分の中でビビッときたんです」
──具体的にどういった点に惹かれたのでしょうか?
「例えば、教員の場合、担当する期間は1、2年なんです。人様の子供を預かる仕事なのに、『1、2年勝負』という言葉をよく聞きました。でも僕の中では、それが何だか無責任に感じたんです」
箱石さんは真剣な表情で続ける。
「人生100年時代と言われる中で、1、2年過ぎたら自分の領域外になってしまう。そのシステムにどうしても馴染めなくて。関わるなら、もっとずっと長く関わっていきたいと思っていました」
「教員は本当にいい仕事なんです。ただ、4年間従事させていただいて、自分に合わない部分も見えてきた。だからこそ、今の会社を選びました。働き方も、時間の使い方も、自分の在り方も含めて、ここなら理想を実現できると感じたんです」
時間の使い方へのこだわり
──お客様との時間の使い方について工夫されていることは?
「最初の30分で、その方の状況をしっかり理解するようにしています。例えば、『今一番心配なことは何ですか?』『5年後はどんな生活をイメージされていますか?』といった質問から始めるんです。この時、保険の話は一切しません」
「この対話の中で、『今すぐ保障の見直しが必要な方』なのか、『まだ先でもいい』のか、『実は保険以外の課題が大きい』のか。そういった見極めができるんです。『今は保険の優先順位は低いですね』とお伝えすることもあります」
──具体的にはどのように時間を使い分けているんですか?
「例えば、お子さんが生まれたばかりのご家族には、1回の面談でも2時間くらいかけます。教育費の話から、奥様の再就職の可能性、将来のライフプランまで、じっくり考える必要がありますから。一方、単身の方で転職を考えている場合は、まず転職後の状況が見えてから、改めてお会いする約束をさせていただく。そんな風に、その方の状況に合わせて柔軟に対応しています」
「移動時間や待ち時間も大切にしています」と言いながら、スマートフォンを取り出した箱石さん。リマインダーを活用した独自の管理システムには、提出書類からアポイントメントまで、細かく設定されている。
独立後の気づき
「最初の頃は『とにかく数をこなさないと』って必死でした。知人に片っ端から連絡して、月に20件くらいアポを入れてたんです。でも、そうすると次の商談までにその方のことを十分理解できていなかったり、前回の会話の細かい内容を覚えてなかったり…。結局、『保険を売りに来た人』で終わってしまうんです。
ある時、じっくり話を聞かせていただいたお客様から『うちの妹も今、教育費のことで悩んでるのよ』って自然に紹介していただいて。『あ、数じゃないんだ』って気づきました。
今は月に会うのは5〜6組。その分、その方の家族構成や、今後の家計の変化、夢や不安なことまでじっくり伺えます。そうしたら、不思議とお客様から『○○さんにも相談してみたら?』って紹介していただけるようになったんです」
人との出会いを大切に
「今はお客様との会話の中で出てきた『子どもの受験』『親の介護』といった話題をしっかりメモします。そして次にお会いした時に『前回○○のお話が出ていましたが、その後いかがですか?』と伺うんです。そうすると『覚えていてくれたの?』と喜んでいただけて。保険の話だけでなく、その方の人生に寄り添える関係が作れるようになりました」
と箱石さんは落ち着いた口調で語り始めた。
「保険の話をする時、ついつい商品説明が中心になりがちです。でも、それは本末転倒。まず相手の人生観や価値観を深く理解する。その上で、その方の理想の人生に近づくための選択肢の一つとして保険を提案する」
「例えば経営者の方との商談。表面的な保障の話だけでなく、『会社の将来をどう描いているのか』『従業員の方々にどんな環境を用意したいのか』。そういった本質的な部分まで踏み込んで話し合います」
「この考え方は、保険に限らず、どんなビジネスでも同じだと思います。商品やサービスを売るのではなく、相手の理想に近づくためのサポートをする。そういう視点を持てるようになってから、仕事の質が変わってきました」
法人営業という新たな挑戦
──今後の展開について伺えますか?
「現在は法人営業の知識を積極的に勉強しています」
「税制や事業承継など、まだまだ勉強不足だと実感する毎日です。ただ、経営者の方々と話していく中で、企業にはライフサイクルがあることがわかってきました。創業期、成長期、成熟期、それぞれのフェーズで必要な対策が変わってくる。その変化に合わせた最適な提案ができる専門家になりたいんです」
「例えば、事業承継一つとっても、税金対策だけではない。『誰に、どんな会社を、どう残していきたいのか』。経営者の方の想いに寄り添いながら、選択肢を提案していく。そのためには、財務や税務の知識はもちろん、その会社の歴史や文化まで理解する必要がある」
──最後に、この仕事の魅力を教えていただけますか?
「教員時代、生徒一人一人の人生に関わる仕事がしたいと思っていました。今は形は違いますが、お客様の人生の重要な場面に関われる。経営者の方々の夢や想いに寄り添い、それを実現するお手伝いができる。その責任の重さとやりがいを日々感じています」
取材後記
本インタビューで見えてきたのは、単なる転職成功例ではない、より深い気づきだった。「月20件」から「月5〜6組」へ。この数字の変化は、単なる効率化ではない。むしろ、一人一人との関係性を掘り下げることで、結果的に紹介が生まれ、信頼の輪が広がっているのだ。
教育現場で培った「一人一人と真摯に向き合う」という姿勢は、保険という新たなフィールドでより確かな形を見せている。
特筆すべきは、箱石さんが語る「相手の価値観を深く理解する」というアプローチだ。表面的な商品説明ではなく、「その人が描く未来」に焦点を当てる。この視点の転換は、保険営業という枠を超えて、あらゆるビジネスパーソンにとって示唆に富む。
従来の営業は「いかに売るか」を追求してきた。しかし箱石さんの実践は、「いかに相手の人生に寄り添えるか」という、より本質的な問いを投げかける。これは一見、遠回りに見えるかもしれない。だが、この時代だからこそ、むしろ最短路なのではないだろうか。
この取材を通じて確信したのは、ビジネスの成功とは、結局のところ「人との向き合い方」に行き着くということ。テクノロジーが進化し、働き方が変わろうとも、この本質は変わらない。そして、その本質を誠実に追求することが、新時代のビジネスパーソンに求められる普遍的な姿勢なのだと。
終始穏やかな表情で取材に応じてくれた箱石さん。厳かな秋の三八城公園で、時折見せる屈託のない笑顔に、教員時代から変わらない誠実な人柄が感じられた。「この仕事をしていると、本当に面白い方々と出会えるんです」。人との出会いを心から楽しむ様子が印象的だった。